
永田町の舞台裏 08.03.22号
死んだ振りだったのか
日銀総裁人事をめぐって面目を失っている人が多い。とくに福田首相とメディアの男の下げようがひどくはないか。日本の将来にとっても金融政策にとっても、そう本質的でない話で、どうしてこうも地金をさらしてしまう面々が多いのだろうか。
民主党が論理的に武藤総裁には賛成できないことは何度も指摘してきた。民主党自体あまりその理由をうまく説明できたとは言えないが、財務省が歴代次官の最高の「天下り先」として差配する人事は受け付けないということなのだろう。民主党の言う「財金分離」とは財務省出身者を排除するというより、財務省が人事を決めるという事態を忌避するということなのだ、と代弁したい。
だから、武藤さんの先輩次官の田波さんに首を挿げ替えたって、民主党が賛成できるはずもない(論理的に)。こんな簡単な図式をどうして福田さんが分からずに、無駄に恥をさらしているのだろうか。
福田さんは官房長官時代に副総裁に押し込んだ武藤さんが好きでしょうがなかった、という解説がある。もし今回のゴタゴタの出発点がそこにあるのなら、福田さんはすぐに首相を辞めたほうがいい。
武藤さんの人柄は前に書いた通りで、日銀副総裁のパフォーマンスはどうだったかというと、政策審議委員会での表決はこの5年間すべて福井さんと同じ。デフレからの脱却という至上命題を実現できなかった「戦犯」の一人で、そういう人に次の5年間も任せたいというのでは、首相としてあまりに見識に欠けてはいないか。
これは有名な話だが、金融界では日銀総裁の用件として、マクロ経済に詳しい、金融行政に詳しい、英語が達者である――の3点が挙げられている。例えば竹中さんが公言しているように、武藤さんはこのどれにも当てはまらない、というのも業界の定説で、福田さんがいくら情報過疎だとしても、そのぐらいは耳に入っていただろう。
福田さんは財務省の意向というか霞ヶ関の論理を重視した、という解説もある。しかし、この人事の過程で、トヨタの奥田さんら民間人数人に総裁就任を打診しているのだから、この説も正しくないだろう。
思うに、福田さんには他に選択肢がなかったのではないか。かなり前、武藤さんでは参院の同意は得られないと心配した自民党の幹事長経験者が、財務次官の津田さんに聞いたという。「他にいないのかね」。その答えはこうだった。「私たちは5年も前から武藤さんと決めています。いまさら言われても他の候補がいないんです」。この津田さんの説明を聞いた政治家はほかにもいる。財務省はこの理屈以外は受け付けず、福田さんがそれに逆らえなかったとしか思えない。
武藤さんの次の候補となった田波さんは福田さんの独断で、財務省も反対したというのも定説だが、このことも財務省のゴリ押しの傍証になるかもしれない。
私にはもうひとつ、財務省の魂胆が透けて見える。この間のメディアの論調を思い返して欲しい。恥ずかしいことだが、朝日も含めて、武藤総裁案に賛成するよう民主党に求める声であふれかえった。長年、朝日で記者をした私には極めて異様に思えた。財金分離が好きだし、政府のやることは一応疑ってかかるという朝日の体質から言って、武藤総裁を推すことはおよそふつうではない。
日銀総裁になったら日本は世界から笑いものにされ、とんでもない経済失政になるという論調もめだったが(朝日も)、どうか。米紙などは、福田さんにリーダーシップがないと、極めて冷静に事態を受け止めている。こういう政治状況は多々あるし、そういう状況なら政府人事が決まらないということも多々あるのだ。具体的に何があったかは分からないが、朝日の体質をも変えてしまうほど、財務省からの「ご説明」があったとしか思えない。
数々の不祥事で財務省はもう影響力がなくなった、ふつうの官庁になったと思っていたが、うかつだった。財務省は死んだ振りをしていて、ちゃっかりと永田町・霞ヶ関の掌握力を取り戻しているのかもしれない。
財務省が復活に懸命なのを責めているのではない。組織たるもの、当然の生理だとも思う。情けないのは、財務省に踊らされていそうな福田さんとメディアなのだ。(O)
日銀総裁人事をめぐって面目を失っている人が多い。とくに福田首相とメディアの男の下げようがひどくはないか。日本の将来にとっても金融政策にとっても、そう本質的でない話で、どうしてこうも地金をさらしてしまう面々が多いのだろうか。
民主党が論理的に武藤総裁には賛成できないことは何度も指摘してきた。民主党自体あまりその理由をうまく説明できたとは言えないが、財務省が歴代次官の最高の「天下り先」として差配する人事は受け付けないということなのだろう。民主党の言う「財金分離」とは財務省出身者を排除するというより、財務省が人事を決めるという事態を忌避するということなのだ、と代弁したい。
だから、武藤さんの先輩次官の田波さんに首を挿げ替えたって、民主党が賛成できるはずもない(論理的に)。こんな簡単な図式をどうして福田さんが分からずに、無駄に恥をさらしているのだろうか。
福田さんは官房長官時代に副総裁に押し込んだ武藤さんが好きでしょうがなかった、という解説がある。もし今回のゴタゴタの出発点がそこにあるのなら、福田さんはすぐに首相を辞めたほうがいい。
武藤さんの人柄は前に書いた通りで、日銀副総裁のパフォーマンスはどうだったかというと、政策審議委員会での表決はこの5年間すべて福井さんと同じ。デフレからの脱却という至上命題を実現できなかった「戦犯」の一人で、そういう人に次の5年間も任せたいというのでは、首相としてあまりに見識に欠けてはいないか。
これは有名な話だが、金融界では日銀総裁の用件として、マクロ経済に詳しい、金融行政に詳しい、英語が達者である――の3点が挙げられている。例えば竹中さんが公言しているように、武藤さんはこのどれにも当てはまらない、というのも業界の定説で、福田さんがいくら情報過疎だとしても、そのぐらいは耳に入っていただろう。
福田さんは財務省の意向というか霞ヶ関の論理を重視した、という解説もある。しかし、この人事の過程で、トヨタの奥田さんら民間人数人に総裁就任を打診しているのだから、この説も正しくないだろう。
思うに、福田さんには他に選択肢がなかったのではないか。かなり前、武藤さんでは参院の同意は得られないと心配した自民党の幹事長経験者が、財務次官の津田さんに聞いたという。「他にいないのかね」。その答えはこうだった。「私たちは5年も前から武藤さんと決めています。いまさら言われても他の候補がいないんです」。この津田さんの説明を聞いた政治家はほかにもいる。財務省はこの理屈以外は受け付けず、福田さんがそれに逆らえなかったとしか思えない。
武藤さんの次の候補となった田波さんは福田さんの独断で、財務省も反対したというのも定説だが、このことも財務省のゴリ押しの傍証になるかもしれない。
私にはもうひとつ、財務省の魂胆が透けて見える。この間のメディアの論調を思い返して欲しい。恥ずかしいことだが、朝日も含めて、武藤総裁案に賛成するよう民主党に求める声であふれかえった。長年、朝日で記者をした私には極めて異様に思えた。財金分離が好きだし、政府のやることは一応疑ってかかるという朝日の体質から言って、武藤総裁を推すことはおよそふつうではない。
日銀総裁になったら日本は世界から笑いものにされ、とんでもない経済失政になるという論調もめだったが(朝日も)、どうか。米紙などは、福田さんにリーダーシップがないと、極めて冷静に事態を受け止めている。こういう政治状況は多々あるし、そういう状況なら政府人事が決まらないということも多々あるのだ。具体的に何があったかは分からないが、朝日の体質をも変えてしまうほど、財務省からの「ご説明」があったとしか思えない。
数々の不祥事で財務省はもう影響力がなくなった、ふつうの官庁になったと思っていたが、うかつだった。財務省は死んだ振りをしていて、ちゃっかりと永田町・霞ヶ関の掌握力を取り戻しているのかもしれない。
財務省が復活に懸命なのを責めているのではない。組織たるもの、当然の生理だとも思う。情けないのは、財務省に踊らされていそうな福田さんとメディアなのだ。(O)
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